2月10日。
 一人の悩める乙女がここにいた。

 「ん-でもでも、手作りって重くないですかあ!?別に彼氏でも何でもないんですよ ?空さんは付き合ってるからいいけど‥」
 「京ちゃん、男は手作りには弱いのよ★」
 さすが空さん。 ヤマトを射止めただけはある。
 「でもあたし料理とかしたことないし!」
 「案外簡単よ?なんなら一緒に作る???」
 「えっ、いいんですか!?‥ぁ、でも‥」
 さっきからデパ-トの特設バレンタインコ-ナ-で同じような会話を延々と続けてい る 。
「大丈夫!大輔くん鈍感だから手作りだってわからないかもよ?」
 「それはそれで作り甲斐ない気が‥」
 「あ-もお!…じゃあ皆に作ればいいじゃない★」
 そんな長時間にわたる論議の末、バレンタインに義理にはクッキ-を、
食いしん坊 の本命には大きなチョコケ-キを作ることになった。


2月13日。
 しかしいざ作るとなると、クッキ-は上手に焼け、ラッピングもかわいくできたも のの、
初心者にチョコケ-キはなかなか難しい。
オ-ブンから取り出してみたが、ケ-キは思うように膨らんでくれない。
 「む〜‥これ以上焼いたら焦げちゃうよ-」
 「あれ、京ちゃんふくらまなかった???」
 空の焼き上がったケ-キを見ると、ふわふわおいしそうに膨らんでいる。
 「も-ぉやだあ-!!!やっぱりやめる!買った方がおいしいし絶対大輔も喜ぶし!!!」
 空が京をなだめようと近づくと、封を切っていないべ-キングパウダ-が目につい た。
 「み・や・こちゃん★コレを入れないと膨らむわけないわよ★」
 「あぁ-!忘れてたあ!」
 「さ、もう一回!」

1時間後。
 やっと焼き上がり、なんとかデコレ-ションも終えた。
 「できたあ-!!!」
 そう叫び、ふたりは抱き合って喜んだ。
 記念に写メをとって見てみると、ケ-キ屋のショ-ケ-スに入っているものみたいに キレイに見えた。
 「よしっこれならイケる!」
 失敗したぶんにもデコレ-ションを施して、お父さんとお兄ちゃん用にして。
 うきうきしながら家までの暗い道を歩いた。


バレンタイン当日。
 クラスで大量に作った義理チョコを配った。
 皆おいしいと言ってくれたが、去年本命をあげたコが京に向かって、
今年は義理チョコかあ、とふざけて言った。
 京は今まで毎年違う人にあげる程、気が多かったのだ。

 放課後、緊張しながら5年生の教室に行くとちょうどヒカリとタケルはいい雰囲 気。
 盗み聞きするつもりはないのだけれど、無意識のうちに教室の前でしゃがんで隠 れてしまって、
しかも窓が開いてるから二人の会話が聞こえてしまう。
 「―――‥で、京さんどうしたの?」
 二人は当然気付いていたようで、いきなりタケルが窓から顔をだす。
 「あ、ぇと、あの‥」
 「大輔くんならサッカ-の練習に行っちゃいましたよ。」
 「べ、別に大輔に用事があるわけじゃないよっ!」
 京はそう言うと顔を真っ赤にしながら走って行った。
走って家に帰ってケ-キを持って、
今度は慎重に歩きながらサッカ-クラブが練習 しているグラウンドへと向かう。
 近くなるにつれて緊張が高まっていく。

公園に着くと、数人の男の子がサッカーをしていた。
その中でもひときわ大きい声を出しているので、どれだかすぐにわかる。
しばらく階段に座ってその様子をながめていた。

「あれ、・・・京さん?」

聞きなれているが思いがけない声に振り返ると、そこにはにっこり微笑むタケル。
「大輔くんを待っているの?」
タケルは京の持っているキレイにラッピングされた大きなモノを見ながら言った。
「ち、違うよ!!!ちょっとタケルくん何いってんの!!!」
「ばればれ。だってさっき僕が大輔くんの居場所言ったし。」
「・・・む-。タケルくんにはばれたくなかったのに・・・。」
「??なんで???」
観念するにしても意外な返答に、少し疑問を持つ。
京は言いにくそうに、ぽつぽつと口を開き始めた。
「・・・だって、タケルくん、ヒカリちゃんのこと、・・・スキじゃん。」
理解のできない答えにタケルは首を傾げる。
「そうだけど・・・どういうこと???」
「大輔も、ヒカリちゃんのこと、スキでしょ?だから、なんとなく・・・」
それだけ言うと深くため息をついてうずくまってしまった。
「京さん?僕は確かにヒカリちゃんのことスキだけど・・・」
タケルが言いかけると、男の子達は練習を終えたようで、大輔がこちらに向かって走ってきた。
「お-!お前ら何してんだ?」
京はうずくまったままだ。
「京さん、じゃ、僕帰るね。」
「あ?帰んのか?じゃーなー」
タケルが見えなくなると、大輔は京がうずくまったままなのが気になってきた。
「京?」
覗き込んでみるが、返事はない。
「あ!そ-だっ今日バレンタインだよな?
まだお前からチョコ貰ってないぜ!」
大輔はきっと、京の傍にある大きな、キレイにラッピングされたモノに
気づいてはいないのだろう。
両手をちょこんと京に突き出す。
京はやっと頭をあげて、深くため息をついた。
「あんた、ヒカリちゃんには貰ったの?」
「貰ってねーよ?ブイモンの分はもらったけど!」
ヒカリちゃんにもらえなくて、落ち込んでいる大輔を想像していたが、
返ってきた答えはそれとは違っていた。
「?あんまり凹んでないね。」
「あ-、毎年貰ってないしな。それにヒカリちゃんには
やっぱタケルだろ?で、はい。」
更に二つの手を京の前にずい、とさしだす。
「・・・そんなんじゃあげられないわよ。」
「えッ何で!!!」
京は大輔をきっと睨むと、傍に置いていたモノをずい、と差し出した・・・というより、押し付けた。
「あ、サンキュ・・・て、え!!このでかいの!?」
大輔は思いがけない贈り物に戸惑う。
「そーよっ頑張って作ったんだから、ありがたく受け取りなさいよね!」
「げー京が作ったモノこんなに食ったら、俺もチビモンも
腹壊しちまう!」
大輔は京のきーきーとうるさい声が返ってくるのを期待したが、
京の目は点になっている。
「は?ブイモン???」
「?ああ、こんなでっかいの、チビモンも俺も食いしん坊だから二人で食えってコトだろ?」
大輔が言い終わるのを待たずに京はすくっと立ち上がり、
走った。
「ちょっ、京!?」
「大輔のばあああか!!!」
なに-!?」
大輔は京を追いかけて走ろうとしたが、せっかくもらった
おおきなおおきなチョコの、キレイなのが崩れるのを気にして、
ありがとな、とおおきく叫んだ。


























◆END◆



バレンタインもの・・・あわわわ。
やっぱり大京ってむずかち・・・