「そうだったんだぁ。」
「よく頑張りましたね、京くん。」
「あ、バレンタインといえばこうしろうくんっあたしのチョコもう全部食べてくれた?」
「え″、ええ・・・」
「ほんと-!?ね、ね、おいしかった?今年は頑張ってみたんだぁ★」
「え、えと・・・」
バレンタインから3週間。
京は小学校を卒業し、大輔たちより一足早く卒業式を迎えた。
友達と遊んだ帰りにミミと光子郎のカップルにばったり会った。
そして空からバレンタインの一部始終を聞いていたミミに、
喫茶店に引っ張り込まれたのだった。
京の話を聞くために3人で入ったはずが、いつのまにか2人の世界に入っている。
「ちょっと-!続き聞いてくださいよぉ-」
京が膨れながら言うと、ミミはやっと戻ってきて、光子朗は助かった、というような顔をした。
「あ、もうすぐホワイトデーじゃない!楽しみだね♪」
「えええッ!あたし、そこまで期待してないですううう!!!」
もともと赤らんでいた京の頬が更に真っ赤になる。
「あれれれ-?ちょっと期待してるv」
「違ッ!!!」
バレンタインデーの日以来、大輔には会っていない。
大輔は義理だと思っていたようだったが、京はどうしても気まずくて、顔を合わせない様にしていた。
「・・・あれから、会ってないし・・・」
「え!?そーなの?じゃあ家まで来てくれるかもよ-v」
ミミは京の恋する乙女な姿にますます面白がる。
「なんだか、京くんらしくないですね。」
光子朗が笑いながら言うと、
「恋する乙女はこーいうものなのっ」
とミミが返した。
2人は京の気もしらずに、とても楽しそうに話す。
結局、大した話もしないまま喫茶店を出て、別れた。
ミミの用事で3月14日に会えないため、2人はこれからホワイトデーのデートだそうだ。
2人の手を繋いで歩く姿を見送りながら、京はため息をついて家路を辿った。
「・・・はぁ-。」
「どうしたんでしゅか、京さん?」
お風呂に入るとあのバレンタインの日のタケルくんとヒカリちゃん、大輔がサッカーをやってたグラウンドの様子、
・・・そして大輔の顔がぐるぐる頭を廻る。
「・・・期待したくないのに。」
「???」
京が元気がないのは今に始まったことじゃない。ここ最近ずっと、まるで病気でもしたかのようにおとなしい。
ずっと一緒にいるポロモンには、それがよくわかる。
だからこそ、いつもと違って元気のない京をひどく心配していた。
ただ、恋愛に疎いポロモンにはその原因は全く分からなかった。
大輔から何の連絡もないまま、一週間がすぎようとしていた。
3月13日午後8時。
姉、兄はデートのために出かけてしまい、京は家に一人。
リビングで毎週楽しみにしているドラマを見ていた。。
小学校を卒業したら、と約束でやっと買ってもらった携帯の着信が鳴り響いた。
京はそれまでかじりつくようにして見ていたドラマを放り出して、代わりに大輔の顔が頭をよぎる。
携帯を開くと、メールBOXには”賢くん”の文字。
ため息を一つついて内容を見ると、ホワイトデーのお返しを渡したい、ということだった。
選ばれしこどもたちの中でも同じマンションのタケルと伊織には義理チョコとして渡したが、
賢とは会えなかった為渡していなかったから、京は首をかしげる。
その旨を打ち込んで送ると。
”そうでしたっけ?すみません、誰に貰ったか分からなくなってしまって。
でも京さんの分も買ってしまったので、明日の夕方伺ってもいいですか?”
と返ってきた。
悪気はないのだろうが、相当の量を貰ったことがうかがえる。
ありがとう、の後にかわいい顔文字をつけ、送信完了して携帯をとじる。
また、ため息をひとつつく。
バレンタインに大量に配ったため、同じようなメールが何通か着たが、
いつもは鳴るだけでうきうきした気分になる携帯の着信音は、更に京のため息を増やすだけであった。
4月14日午前8時。
昨日の夜はメールを待ちながら、携帯を手にして寝てしまった。
せっかくの春休みでもっと寝ていたいのに、インターホンの音に起こされる。
「はい!はい!あたしが出る!」
京はキャミにショートパンツという寝巻きのまま玄関へとダッシュする。
しかし玄関を開けて見たのは想像とは外れて金髪・長身の同じマンションの男の子、タケルだった。
「おはよう、京さん」
「・・・なんだあ、タケルくんかあ。」
「誰だと思ったの?」
「別に!で、こんな朝っぱらから何の用?」
タケルが悪いわけではないのについとげとげしい態度をとってしまう。
「コレ、バレンタインのお返し。ありがとうね。クッキーおいしかったよ。」
「ああ、ありがと・・・」
普段ならお菓子を貰うと高い声をはりあげて弾む京なのに、今日は反応が薄い。
「どうしたの?元気ないね。」
「何にもないの!」
「は?」
「何にもないのよ-!!!」
京はいきなり叫びだす。
「ま、まあ落ち着いて。」
「これが落ち着いていられますか!人の気持ちを何だと思ってるの-!!!
大輔の馬鹿!!!」
「大輔くんからお返しがこないの?」
「そうなのよ!・・・って、もうタケルくん!!!さっさと学校行った!!!」
タケルの背中をぐいぐいと押して外に出す。
タケルは想像と違わないことに面白がりながら学校へと向かった。
自分の教室に入ると、大輔の隣の自分の席に着いた。
タケルが大きな袋をドサッと机に投げ出しながら挨拶をすると、
大輔は怪訝そうな顔つきで答える。
「はよ・・・って何だよその袋。」
タケルはバレンタインデーにたくさんのチョコを貰ったためにお返しも
かなりの量になってしまうのだ。
「ん?ホワイトデーのお返しだよ。」
そう何事もなかったようにさらりと答えるタケルの態度が気に食わないが、
なんとも言いようのなく、大輔はちぇ、とおもしろくなさそうだ。
そんな大輔の机のフックに、大きな薄桃色の袋紙袋がかかっているのをタケルが見つけた。
「あ、大輔くんこそ、それホワイトデーでしょ?」
「ちっげぇよ!」
「じゃあ何?」
「な、何でお前に言わなきゃなんねーんだよ!」
「やっぱりホワイトデーだ」
「違うって言ってんだろ!」
二人の言い合いは先生が入ってきて大輔に拳骨が落ちるまでまで続いた。
こういうとき、決まって大輔だけが悪いように言われるのだ。
午後4時。
京は約束もなく、コンビ二の商品陳列を手伝っていた。
何かしていないと気が紛れなかった。
こーした方が光が当たってきれい、などぶつぶつと言いながら商品を前後に移動する。
考え始めるととまらない、京の性格がこんなところにも出てしまうのだった。
京が次はお菓子コーナーかな、と目線を向けると、エプロンのポケットで
携帯が震えた。
期待しちゃ駄目だと自分に言い聞かせながらでもこころの片隅に期待を残し、
携帯をとりだして画面を見つめた。
そのうちに携帯の震えは止まり、メール画面が現れる。
”FROM”の欄には、”大輔”と表示されていた。
「!!!!」
京の表情がぱっと明るく、赤くなった。
しかしその次の瞬間には、落胆の表情を見せた。
「おとーさーん、あたしちょっといってきまーす」
そう力なく言い残すと、父親のどこに行くのかという質問に耳も貸さず、店を出て行った。
京がたどり着いたのは、お台場小学校。
大輔からのメールの内容は、”パソコン室に皆集合してるから京も来い!”
というものだった。
完全にホワイトデーをくれる気のなさそうな内容に京は落胆したのだった。
卒業から2週間しか経っていないものの、校舎はなつかしく感じられた。
その中でもひときわ思い出が残るパソコン室の扉に手をかける。
大輔がお返しをくれないことと、バレンタイン以来気まずいことが相俟って、
扉がやけに重く感じられる。
ゆっくりとドアをスライドさせると、夕日と、大輔が立っているのが視界に入った。
他のメンバーは、まだ来ていないようだ。
京は最悪・・・と思いながら中に入る。
「おー、来たな。」
「皆はまだ?」
「あー、・・・うん」
いまいちはっきりしない大輔の答え。
「・・・あ、コレ。」
大輔は朝から机にかけていた袋をずい、とさしだす。
京は一瞬期待の気持ちが頭をかすめるが、あまりにも大きい袋を目の前にして、
それはない、と否定する。
「え、何?このでっかい紙袋。」
「なっ、何だよ!やっぱお前本命っじゃなかったのかよ!」
大輔は顔を真っ赤にして大慌てで紙袋を自分の体の裏に隠す。
脈絡もなく意味のわからない大輔の行動に、京は首をかしげ、苛立ちすら覚える。
「はあ!?何なのよ!」
「だから、バレンタインだよっ!」
「はあ!?あんたの頭やっぱり脳みそ入ってないの!?
そんなの本命に決まってんでしょー!?」
「だ、から、今日はホワイトデーだろ!」
一度は隠した紙袋を京に投げつけ、出て行った。
「・・・な、何なの?あいつ・・・。」
投げつけられた紙袋の中身をのぞくと、キレイにラッピングされた
大きな包みと、小さな包みが入っていて、小さな包みにはノートを破ったような紙が挟まっていた。
みやこへ
ケーキうまかった。
全部オレ1人で食ったらちょっときもち悪くなった。
ありがとう。
大輔
大きく、汚い字で書いてあった。
小さな包みに手をかけると、かわいらしいクッキーが入っていた。
次に一番大きな包みのリボンに手をかけた。
ピンクのふわふわした紙の中から出てきたモノは、純白のワンピースだった。
胸元のレースや、パフスリーブになっている袖がとてもかわいらしい。
京の胸は嬉しい気持ちと、ドキドキしているのでいっぱいになり、涙で夕日が潤んだ。
そのワンピースを広げて、自分が着ているところを想像してみる。
「・・・に、似合わない・・・」
自分でも顔が青ざめてくるほど似合わない。
そう思い始めると、頭を過ぎるのはこのワンピを着たかわらしいヒカリの姿。
「あ、もしかしてこっちはヒカリちゃんに渡しといてってこと!?」
結局どうすれば良いか迷ったが、結局そのワンピースを元のようにキレイにラッピングして、
ヒカリの家へ向かった。
インターホンを押すと、丁度良くヒカリが出た。
「京さん?どうしたの?どうぞ、あがって。」
優しい笑顔で迎えてくれたヒカリは、やっぱりかわいくて、
手に握っている薄桃色の袋は自分に向けてのモノじゃない、と確信した。
「あ、いいの玄関で。これ、大輔から預かったんだけど・・・あたし間違えて開けちゃったの。ごめんね!」
紙袋を前に出すと、一瞬ヒカリは訳が分からないような顔をしたが、あははっと笑い出した。
「・・・え?」
「京さん、やっぱり上がって。」
「え?・・・うん。」
のろけでも聞かせられるのだろうか、何で笑ったのだろうかなどと思いながらおじゃまします、と言い、足を出す。
ヒカリと太一の部屋に通され、しばらくしてヒカリがココアを持ってきてくれた。
「京さん、それ中身見た?」
「見たよ-!ヒカリちゃんにすっごく似合いそう!」
「えー、あたしは京さんに似合うと思ったんだけどなあ。」
「えっ、絶ッ対似合わないよ!、て、中身知ってるの?」
ヒカリの、不可解な発言に京は首をかしげる。
「知ってますよ♪」
京が混乱しているのとは相反してなんだか楽しそうなヒカリ。
{???はじゃあ、どういう意味-!?ちゃんと教えてよぉ!」
京がむくれて言うと、ヒカリは楽しそうな表情を崩さずに話し始めた。
「あのね、大輔くんのホワイトデーの買い物に付き合ったの。その白の
ワンピースは、大輔くんが京さんに何て言って渡したのかは分からないけど、京さんに、だよ。」
今まで散々期待しては裏切られたため、そう簡単には信用できない。
「え、でもこんなの絶対あたしに似合わないし・・・。コレ、ヒカリちゃんが選んだんでしょ?
それなら、大輔はヒカリちゃんが欲しいモノを聞き出したかっただけ、とかかもよ!?」
「ううん。それは、大輔くんが選んだの。一緒に選びに行ったんだけど、京さんにはコレが似合うって聞かなくて。」
「大輔が・・・?」
「あたしも京さんに似合うと思う。早く着て見せてあげなよ。」
夢心地のまま、ヒカリに促されるままにワンピースに袖を通す。
ヒカリに背中を押され、恐れながら鏡を見てみると、いまだかつて見たことのないような自分がいた。
「ね、かわいいでしょ。」
ヒカリは満足げに笑った。
「ただいまー」「おじゃましまーす」
「おかえりお兄ちゃん・・・と、大輔くん!?」
京の胸が躍る。
「お・・・かえり、大輔・・・。」
自信なさ気に、少しずつ大輔の前へ出た。
大輔が京の姿を見たとたん。
『!!!???』
京に飛びついた。
履いたままの靴もお構いなしに。
太一もヒカリも驚き、京も眼をぱちぱちさせていた。
何秒経っただろうか。
太一が口を開いた。
「おーい、もういいかー?」
はっと我に返った大輔は、慌てながらすいません、とか言いながら、
慌てて靴を脱いだ。
太一とヒカリが笑い、幸せな雰囲気が流れる。
「夢・・?!」
京がまたしても青ざめながら言った。
大輔は靴を脱ぎ終えると、京の方に向き直って、頬を力いっぱい抓った。
「・・いっ、たあー!!!」
京の目には涙が溢れていた。
◆END◆
無駄に長い・・・
ホワイトデーにそわそわする京と光ミミを書きたかっただけです。