『今から30分以内に新宿に来たら,京さんに合わせてあげる』

八神さんからの電話は,それだけを伝えるとぶつ,と切れてしまった。

わけがわからず,焦る僕に残されたのは無機質な機械音。

部活帰りに仲間たちとファ-ストフ-ド店でたむろしていたところを,"帰る"とだ
け言って,エナメルバッグをかついで駅へと走った。

京さん。
会うのなんて何年ぶりだろうか。
どんな女性になっているのだろう。
あまり変わっていないといいな。

頭の中がぐちゃぐちゃになる。
京さんに情けない自分なんて見せたくないけれど,会えば泣いてしまうのではな
いか。そんな不安がよぎるくらいに,精神は不安定になり舞い上がってしまう。

階段を駆け上がり,乱れた息のまま電車に乗り込む。
呼吸を整えても胸のドキドキは治まらなかった。



「あ,一乗寺くん。やっぱり来たね。」

声のする方を見ると,不敵に笑う二つの顔。

八神さんと,高石くん。
いつも悪魔にしか見えない八神さんの(そう言うと小悪魔と言えと怒られるが)
その表情さえ,天使が微笑んでいるかの様に感じられた。