僕はずっと、君の幻を見ている。

また、今日もだ。

サラサラした長い髪にほっそりと長い手足に、メガネののった小さな顔。

もしかしたら君じゃないかって、無意識に期待しながら見る。

僕の期待は当たるはずもなく、数秒後にはそんなわけないよなってため息をつく。

君に、逢いたい。



京さんが小学校を卒業して、デジタルワールドの復旧の完了した。
そして僕は中学校にあがった。
出逢って3年も経っているのに、
彼女へのこの感情が憧憬などではないと気づいたのはつい1年前だった。
最後に会ったのも1年前。
よくもまぁ諦めの悪いものだと自分に関心したりもする。

この1年間、自分の気持ちについて何度も分析した。
僕が内向的な性格で、また闇に取り付かれやすい体質だから、
明るくほがらかな女性に惹かれるのだ、とか、
僕はお兄ちゃんっ子だったし、年上が好きなのかもしれないとか、
この想いが届くことは決してないのだから彼女を神格化してしまっているのではないかとか、
思い出を美化しているだけなのではないかとか、
彼女に救われたことで雛の刷り込みのような現象が起きているのではないかとか、
でも最終的にたどり着く答えは、結局どんな動機があるにせよ、
僕は彼女を想う感情に囚われているということだった。

いい加減解放されたい。
普通に考えてもうあまり会うことはないのだし、
会ったところでこの恋が実る望みがあるとは到底思えない。
だからこの想いがいつか小さくなって、消えて無くなってしまうことを願いながら、
ちくちくとした小さな痛みを抱えながら毎日を過ごしている。
そしてそのために隣のクラスの女子と付き合ってみていたりする。




今日は部活がオフだったので、「彼女」と遊びに出かけた。
お台場へも一本で繋がっている大きな街だから、
もしかしたら、本当に彼女がいるかもしれない、なんて期待が頭の中に一瞬だけ浮かんだ。

「プリクラ撮ろうよ。」

彼女にそう言われて腕を引っ張られ、ゲーセンへ入った。
女子はプリクラが好きだなぁ、と思う。
「彼女」とは週イチくらいのペースで撮っているし、
クラス会や打ち上げで女子と遊びに行くときも必ず撮りたがる。
それをキャラクターのついたノートに貼って、アルバムみたいにしているのも見せてもらった。
僕が「彼女」と撮ったプリクラは、机のひきだしか財布の中に眠っている。
そういえば一度も見返したことなんてないかもしれない。

夕方のゲーセンは制服姿の女子でひどく混雑していて、
耳元で大きな声を出さないと話もできないほどだ。
プリクラを撮るのは良いが、この並んでいる時間が一番困る。
何を話せばいいのかわからない。
メールなんて着ていないことはわかっていたが、気まずくなって携帯を開いた。

意外なことに着信メールが1件。
内容はチームメイトからのお誘いメール。
断りのメールを打って携帯をポケットに戻す。

顔を上げた瞬間、幻を見た。

ああ、まただ。

確かに数メートル先で目があった彼女は髪が長くてすらっとしていて眼鏡をかけているけれども、

またいつもの幻だろう。

おかしい、足元がふわふわする。

彼女の幻は目を逸らさない。



「賢!?」

聞き覚えのある声が、僕の名前を呼んだ。
人の声の海の中でも大きく響くその声の持ち主は。

「大輔!」

しばらく会っていなかった親友の声に自然と僕の声も大きくなる。

「やっぱり賢くん!?」

もしかしてさっきのは、幻なんかではなくて、
でも、まさか、まさか。

「・・・み・・・」

彼女の名前を呼ぼうとしたが、何故か気恥ずかしくてできなかった。

「うわー、やっぱ似てると思ったんだよね!元気!?背のびたねー!
昔はあたしと変わんなかったのにね!髪切ったんだね!
あっ、こないだフリーペーパーに載ってたの見たよ!すごい、また有名人になっちゃったねー!」

彼女は会わなかった時間を埋めるかのように絶え間なく話した。
彼女は顔や声は昔と変わっていたけど、纏う空気はちっとも変わっていなかった。

「あ、あれは知り合いに頼まれて・・・」

足元にふわふわした感じが抜けて、激しい鼓動が襲ってくる。
苦しくて、耐え切れなくなったところに「彼女」が、プリクラのカーテンの中から
早く、と手まねきした。

「あ、彼女待ってんじゃない?」

「じゃーな賢!今度遊ぼうぜ!」

「あ、うん、じゃ、また・・・。」

2人と別れて真っ白なプリクラ機械の中に入ったあともドキドキは止まない。

念願の再会は思わぬかたちでやってきて、嵐のように過ぎていったけど、
確かに大きくなった、彼女への想い。

これ以上好きになったって、辛いだけだとわかっているのに。
心が言うことを聞かない。

それから「彼女」とプリクラを撮って、ファーストフード店で喋って、
家に帰って、いつも通り食事して、風呂に入って、宿題をして、
ベッドに入ったけど、案の定彼女のことは頭から離れなくて、
眠れなくて、苦しかった。

でも僕は、もう無駄な抵抗はしないと決めた。
「彼女」とも別れる。
きっと何年間逢えなくても、もしも彼女が結婚しようとも、
僕はこの痛みから解放されることはないのだろう。
だから、僕はそれを甘んじて受け入れることに決めた。



















◆END◆